仙台高等裁判所 昭和26年(ナ)17号 判決
原告 五十嵐吉蔵
被告 福島県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「(一)昭和二十六年四月二十三日に執行された福島県南会津郡荒海村村長選挙における当選の効力に関する原告の異議につき同年六月二十九日荒海村選挙管理委員会がした決定及び右に関する原告の訴願につき同年七月三十一日被告県選挙管理委員会がした裁決を取消す、(二)右選挙における星犬四郎の当選を無効とする、(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、福島県南会津郡荒海村村長選挙は昭和二十六年四月二十三日行われ原告はその選挙人であるが、右選挙において訴外星犬四郎、室井勇の二名が立候補し選挙の結果星犬四郎の得票は千四百八票、室井勇の得票は千五十一票で星犬四郎が当選人とされた。しかし村長選挙における立候補届出には覚書非該当確認書の写を併せて選挙長に提出しなければならないのであるが星犬四郎の提出した覚書非該当確認書の写は次の理由により無効のものである。即ち同人はかつて荒海村助役であつて昭和二十年一月三十一日から同年四月二十五日までの間同村長欠員のため村長代理として村長の職務を行うと共にその間大政翼賛会荒海村支部長の職務を執行したものであるから、いわゆる覚書該当者であつて公選による公職の候補者たる適格を有しないのである。しかるに同人は昭和二十二年二月十六日公職適否審査委員会に調査表を提出するに際りその調査表に右大政翼賛会荒海村支部長の職歴を故意に記載しないで、これを提出したため、覚書非該当の確認書を得たものであるから、該確認書(確認行為)は実質上無効のものである。蓋しこれをもし有効とするならば右調査表中に事実をかくさないで記載した正直者は所謂覚書該当者に指定され公職から追放され狹い世間を歩かなければならなかつたのに反し、不正直者は却つて覚書非該当者として大手を振つて公職に就き世間を欺き通すことができるという不合理極まる現象を許容することとなり著しく正義に反する結果となる。勿論右調査表の不実記載は犯罪として処罰され、既に得た公職を失い新に得ようとする公職に就くことはできないようになるが、それのみでは右の矛盾は解決されないばかりでなく、右犯罪は短期時効にかかりその目的の半は達せられないのである。されば前示のような確認書は所謂覚書の公職追放の精神に反する無効のものといわなければならない。従つて右のような無効な覚書非該当確認書の写を提出してした星犬四郎の前示立候補については適法な届出がなかつたことに帰する訳であるから同人に対する投票はすべて無効であり同人の前示当選も亦無効としなければならない。
そこで原告は昭和二十六年五月五日訴外荒海村選挙管理委員会に右当選の効力に関する異議を申し立てたところ同委員会は同年六月九日却下の決定をしたので、原告は更に同年七月七日被告県選挙管理委員会に訴願したところ同委員会は同月三十一日棄却の裁決をしその裁決書は同年八月八日原告に交付された。しかし右はいずれも前示の理由により違法である。よつて本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)
被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、福島県南会津郡荒海村村長選挙が昭和二十六年四月二十三日行われ原告がその選挙人であること、右選挙において訴外星犬四郎、室井勇の両名が立候補し選挙の結果原告主張のような得票数で星犬四郎が当選したこと、右当選の効力に関する原告の異議申立から訴願棄却の裁決書交付までの経過が原告主張のとおりであることはこれを認めるが、星犬四郎が昭和二十年一月三十一日より同年四月二十五日までの間荒海村長代理として村長の職務を行うと共にその間大政翼賛会荒海村支部長の職務を執行したものであるのに、公職適否審査会に提出する調査表に右職歴を秘して記載しなかつたとの点は知らない。
仮りに右のような事実があつたとしても選挙管理委員会又は選挙長は右のような実質に立入つて審査する権限はないのである。即ち公選による公職の候補者はその届出に際しいわゆる覚書該当者でないことを証明する確認書の写を併せ提出するを要することは昭和二十二年一月四日勅令第一号公職に関する就職禁止、退職等に関する勅令第八条第一項の規定するところである。そして該確認書は内閣総理大臣の定めるところにより本人の提出する調査表に基き公職適否審査委員会の審査を経て内閣総理大臣又は都道府県知事が交付するものであつて選挙長又は選挙管理委員会には全く実質的審査の権限はないのである。
のみならず覚書非該当確認書を得るために提出した調査表に不実の記載があつても該確認書が当然無効のものとなるのではなく再審査の結果覚書該当者として指定されたときはじめて従前の非該当確認の効力が失われ、その結果確認書が無効となるに過ぎない。(昭和二十三年九月二十四日最高裁判所判決参照)従つて斯様な確認書の写を提出した立候補届出と雖も決して違法ではない。されば訴外星犬四郎の前示立候補は適法であり同人の当選も適法有効であると陳述した。甲各号証の成立を認めた。(立証省略)
三、理 由
福島県南会津郡荒海村村長選挙が昭和二十六年四月二十三日行われ原告がその選挙人であること、右選挙において訴外星犬四郎と室井勇の両名が立候補し原告主張のような得票数で星犬四郎が当選人とされたこと、右当選の効力に関する異議訴願の経過が原告主張のとおりであること以上の事実は当事者間に争のないところである。
原告は右訴外人が立候補届出にあたり提出した覚書非該当の確認書の写は同人が公職適否審査委員会に提出した調査表に、いわゆる覚書に該当する職歴を故意に記載しなかつたために得た確認書の写であるから実質上無効であり従つてかかる確認書の写を提出してした同人の立候補届出も無効であると主張するけれども覚書非該当確認書を得るために提出した調査表に事実をかくした不実記載があつても、右非該当確認書は当然無効となるものではなく、再審査の結果覚書該当者として指定されたとき、はじめて従前の非該当確認の効力が失われ、その当然の結果としてその証明書である確認書がその時から無効となるに過ぎないものと解すべきである。(最高裁判所昭和二十三年(オ)第九号同年九月二十四日大法廷判決参照)しかして覚書該当者と雖も該当指定のない以上は公職に就くことを禁ぜられるものではない。さればたとい星犬四郎が前示確認書を得るにつき原告主張のような不実記載の調査表を提出したとしても、覚書非該当の確認を得たのであるから同人は公職に就くことを禁ぜられている訳ではなく、右確認書も当然無効ではないのであるから、右調査表に不実記載があつたかどうかの点を判断するまでもなく右確認書の写を提出してした同人の本件選挙の立候補届出は有効であるといわなければならない。従つて同候補者に対する投票は無効ではなくその当選を無効とすべきではない。右と異る見地に立つ原告の本訴請求はすべて失当として排斥を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 小嶋彌作)